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救急救命士法ができるまで プリント メール

 平成3年以前、わが国の救急医療体制については、受入れ側の医療機関の体制は概ね整備されていましたが、搬送途上の医療の確保については十分であるとはいえず、ドクターカー制度の充実と、医師の指示の下に、搬送途上において救急救命処置を行う新たな資格制度の創設が緊急の課題となっていました。
 救急救命士法は、このような現状の改善に向け、新たに救急教令士の資格を創設し、搬送途上の医療の充実を図ることを目的として、制定されたものです。
 この法律は、平成3年8月15日から施行されました。


 わが国では、人口の高齢化や疾病構造の変化等により、虚血性心疾患、脳血管疾患などによる呼吸・循環不全に陥る患者数が急激に増加、また、交通事故の増加という外的要因もあって、救命救急センター等の救急医療機関に搬送される患者数は増加する一方でした。
 これに対し、初期、2次及び3次の医療機関側の受け入れ体制は、おおむね整備されていましたが、救急車による搬送途上の医療に医師等が関与することは少なく、救急隊員の実施する応急手当の範囲も限られていたため、搬送途上の医療の確保は十分であるとはいえず、その充実が緊急の課題とされていました。
 一方、あるテレビ局のニュース番組では、救急医療のキャンペーンを組み、マスメディアを介して国民に救急医療の現状を紹介して、何が問題点なのかを訴え、国民世論の高まりを支持しました。
 厚生省は、平成元年9月に「救急医療体制検討会」を設置し、救急医療体制全般に関する検討を行いました。平成2年8月及び12月の同検討会の中間報告では、緊急を要する搬送途上の医療を確保するためには、医師等が救急用自動車に同乗して直接救急現場に出動するドクターカー制度の充実と、搬送途上において医師の指示の下に高度の応急処置を行うことのできる新たな資格制度の創設等が必要である旨が提言されました。
 また、新たな資格制度(救急救命士)の創設については、自民党社会部会に設置された「救急医療に関する小委員会」においても検討がなされ、平成2年11月小委員長見解として発表されました。
 これらを踏まえ、厚生省では、新たな資格制度を創設するための「救急救命士法」案を作成し、平成3年3月12日の閣議決定を経て、同日国会に提出しました。
 その後、平成3年4月18日、国会において法案は全会一致で可決され「救急救命士法」が成立しました。


 当時の国会での議論から

 「救急救命士によってどの程度救命率が向上するのか」
 (平成3年3月26日参議院・社会労働委員会から)


<菅野議員>
 今までこの救命救急車があったら延命効果があったであろうという患者は想定してどのくらいありましたか。消防庁、全国で。想定できませんか。

<飯田消防庁救急救助課長>
 消防機関の場合に、医療機関に搬送した後の状況がどうなっているかということを正確に把握できる立場に今までなかったわけでございます。
 ただ、一年間に、ちょうど昨年の一月から二月にかけまして一か月間の全国調査をやりましたところ、全国でこの一か月間にCPR対象、心肺蘇生処置を行った対象者が6200人ございました。そのうち初診のときに生存していたと言われるのが38%程度でございまして、一週間後に.生存している方が6.8%になりました。それから、その後も少し追っかけてみたわけでございますが、一か月後にはその生存者の割合が3.6%に落ちてきているという統計資料があるわけでございます。
 これを応急処置を拡大した場合にどれだけ救命率が上がるかということについては、まだ拡大していませんので想定することが非常に離しいわけでございますが、アメリカの資料などで、日本の救急隊員並みに行っていたときとそれに高度なものをつけ加えたときとの同じ地区での比較した資料もあるわけでございますが、それによりますと、これはワシントン州のキングカウンティというシアトルの近くの地区でございますが、日本の救急隊員並みのときに4%だったのが20%近くになったということは統計資料として持っているわけでございます。


 「救急救命士の行う気道確保の内容はどうか」
 (平成3年3月26日 参議院社会労働委員会から)


<高桑議員>
 いや、それはとても私も聞いていながら難しいなと思ったわけでございますけれども、そこでデット・オン・アライバルというのは、病院に来たときには心肺停止状態ですね。
 しかし、救命の可能性があるというところだろうと思うんです。全くだめなものば、これはデット・オン・アライバルではない。しかし、言葉どおりで言えばデットですけれども、デッド状態に近い状態なんだな、きっと。それだと思うんです。
 そこで、デット・オン・アライバルで救命に非常に重要なのが、さっき長谷川局長が言われたような三点セットであるわけなんでしょうが、アメリカですと気管内挿管をしてしまう、これは許されているというふうに僕は聞きましたが、日本の場合は、気道確保というのはどの程度までであるか、それから気管内挿管というのは将来訓練をしてそこまで技術を向上させるのか、いかがでしょうか。

<長谷川厚生省健康政策局長>
 心肺停止状態にあります患者さんに対しまして、医師の指示のもとに行います気道確保はどんなことをやるのかというお尋ねでございますが、ラリンゲアル・マスクあるいは食道閉鎖式のエアウエーを使うということを考えております。
 それから、気管内挿管に関するお尋ねでございますけれども、気管内挿管によります気道の確保は有効な手段というぐあいに考えているわけでございますが、医学的に高度な知識なり技能を要求されまして、また処置によります危険住も高い行為でありますことから、今後専門家の意見を十分間いた上で救急救命士に行わせるかどうか検討していきたい。現時点ではまだ専門家の意見をよく聞いた上で判断したいというところでございます。


 「医師は実際に診察することなく救急救命士に的確に指示できるのか」
 (平成3年4月12日 衆議院社会労働委員会から)


<外ロ議員>
 的確な処置という場合は小刻みな観察による確かめ、そして知識に裏づけられた判断力、さらに高度の技術に支えられた処置といった一連の行為によって初めて可能になるわけですが、全く見ないで、手を触れない人の指示によってそれが可能なのでしょうか。その点についてお伺いします。

<長谷川厚生省健康政策局長>
 心肺機能停止状態の息者さんというケースにつきましては、救急救命センターにおきましていろんなケースをごらんになっていらっしやるわけでございますから、そういう患者さんはどういうような状況にある患者さんであるか、その場合にどういうような情報伝達が救急救命士から伝えられるようになるのかということをきちっと整理いたしまして、そこら辺を救急救命士にきちっと教え、そういう情報を救命救急センクーのお医者さんが受け取りまして、それによってこの処置、この処置というような指示を行うということになるわけでございますので、そういう面でそういう症例といいますか、患者さんをいろいろ見ていらっしやる救命救急センターのお医者さんの指示をいただきながら、救急救命士に教育をし、それを救命救急センターの方に伝えてもらうという仕組みをやることによりまして、先生のような御指導の御心配はないものというぐあいに考えておるところでございます。


 「救急救命処置によって事故が起きた場合の責任はどうか」
 (平成3年4月12日 衆議院社会労働委員会から)


<外口議員>
 そのような状況下にある患者さんに救急救命処置が実施された場合、その結果に対する責任の所在は大変に重大な問題と考えますので、その責任の所在について明らかにしていただきたいと思います。
 まず、救急救命処置の実施者の責任ほどのようになっているのでしょうか。お願いいたします。

<長谷川厚生省健康政策局長>
 申し上げましたように、救急救命士は医師の指示のもとで救急救命処置を行うことというぐあいにされております。でございますから、先生お尋ねございましたように、救急救命士は必ず医師との連絡をとりまして医師の指示を受けて、その医師の指示を受ける場合には当然患者さんの状態等につきまして的確に医師に連絡し、医師がその連絡を受けて指示した上で行うという形になるかと思います。
 一般的には、仮に事故が起きた場合の責任主体の問題でございますけれども、それは患者さんの傷病の程度なり、医師の指示の内容、あるいは救急救命士の行っておる処置の内容、事故の状況等によってさまざま異なってくるというぐあいに思うわけでございます。
 しかし、医師が患者の状況を踏まえまして救急救命士に対して行った指示の内容に明らかな過失がある場合には医師の責任が問われる、それから救急救命士が医師の指示に反して処置を行いまして医療事故を起こした場合等、明らかに救急救命士に過失があると認められる場合におきましては救急救命士の責任が問われるというぐあいに考えるわけでございまして、基本的にほ医師の責任、ケースによって救急救命士の責任というぐあいに個々の状況に応じて、画然と分けるわけにはいきませんけれども、それぞれのケースケースによりまして、状況によりましてそれぞれの責任があるというぐあいに考えているところでございます。


 「ドクターカーの普及が遅れているわけはどうか」
 (平成3年4月12日 衆議院社会労働委員会から)


<児玉議員>
 ドクターカーが厚生省や自治省が期待されるテンポでは普及していないと思うのですね。その普及が遅れている隘路は何ですか。

<長谷川厚生省健康政策局長>
 ドクターカーにつきましてば、現在104か所の救命救急センターのうちに35か所で整備されている状況にとどまっております。これば、救急医療にかかわります医師の確保が非常に難しいということ、救命救急センターの医師、看護婦が救急現場に出動しやすくなるための消防機関との連携等地域におきます体制が必ずしも十分でないということなどの理由によるものというぐあいに考えておるところでございます。このような意味で、さらに自治省、消防庁との連携のもとに、先ほど申し上げましたようにドクターカー制度の普及を図ってまいりたいというぐあいに考えております。


 衆議院附帯決議
 (衆議院社会労働委員会 平成3年4月12日)


 政府は、次の事項につき、適切な措置を講ずべきである。

一 救急専門医等救急医療に携わる医療関係者の養成に積極的に努めるとともに、医師が救急用自動車等に同乗して必要な処置を行う方式(ドクターカー方式)等を推進し、救急医療体制の一層の充実を図ること。

二 救急救命処置が適切に行われるよう、救急救命士と医師その他の医療関係者との十分な連携の確保を図るとともに、救急医療体制の地域間格差の解消に努めること。

三 救急救命士の適切な人材の確保と資質の向上に努め、処遇の向上を図ること。

四 近年の医療の著しい高度化にかんがみ、定期的研修制度の創設を図るなど制度の充実強化に努めること。


 参議院附帯決議
 (参議院社会労働委員会 平成3年3月26日)


 政府は、次の事項につき、適切な措置を講ずべきである。

一 救急専門医等救急医療に携わる医療関係者の養成に積極的に努めるとともに、医師が救急用自動車等に同乗して必要な処置を行う方式(ドクターカー方式)等を推進し、救急医療体制の一層の充実を図ること。

二 救急救命処置が適切に行われるよう、救急救命士と医師その他医療関係者との十分な連携の確保を図ること。

三 救急救命士の適切な処遇の確保を図ること。


 救急医療体制検討会小委員会報告要旨
(平成2年12月5日)


一 救急現場・搬送途上(以下「搬送途上等」という。)における医療の確保

 搬送途上等における医療の確保や救急隊員の応急手当の範囲の拡大を図るためには、救急医療に携わる医師、看護婦・士を十分養成・確保することが最も重要である。しかし、搬送途上で医師が十分な医療行為をなすためには、救急医療に関する専門的な教育訓練を受けた診療の補助を行う者を養成していくことも必要である。これにより、医師が直接処置を行えない場合には、これら専門的な教育訓練を受けた者が、ホットライン等を活用して医師と一体となって救急医療の充実を図っていくことも可能となる。

二 救急隊員の応急手当の範囲の拡大

 最近の医療機器等の進歩を踏まえ、手当を行っても生命に重大な危険を及ぽすことのないようなものに限定して、応急手当の範囲を拡大する必要がある。その場合、相当程度の教育訓練を行うことが必要であり、こうした教育訓練を受けた救急隊貝に限って、できる限り医師の指導・助言の下で、聴診器・血圧計・心電計の使用、鉗子・吸引器による異物の除去、経鼻エアウェイによる気道確保等の応急手当を追加して行わせる必要がある。

三 新たな資格制度の創設

(1) 新たな資格制度の必要性

 心肺停止状態患者の救命率の向上のために必要性の高い除細動、輸液、気道確保等の高度の応急処置については、各種の医学的判断を要し、かつ、処置による二次的障害発生の危険性もあり、総合的な医学的知識及ぴ技能が要求されるものであることから、新たな国家資格制度として救急救命士を創設し、医師の指示の下に実施する必要がある。

(2) 新たな資格制度の概要

ア 業務 医師の指示の下に、救急現場から医療機関に搬送するまでの間に、救急救命処置を行う。特に、高度な処置については、心肺停上状態にある患者に限定して行う。

イ 免許 国家試験(以下「試験」という。)に合格した者に対し、厚生大臣が与える。

ウ 試験 救急救命士として必要な知識及び技能について厚生大臣が行う。

 受験資格は、高校卒業者であって、学校又は養成所において二年以上救急救命士として必要な知識及ぴ技能を修得したものを基本とする。

最終更新日 ( 2007/09/01 土曜日 06:47:14 JST )